冥王星O(だいたい)全部読了!

電撃文庫MAGAZINEを買いそこねたので、フィータスのFだけ読めていないのですけれど、単行本として出ている分に関しては全て読み終えました。
(ヴァイオリンのVとウォーキングのWの感想はこちら)
【以下ネタバレアリ】
【各作品の担当作家は、間違いの可能性もあります】

個人的スマッシュヒットが『ジャンクションのJ』: 新城カズマ

まず、特に印象に残ったのはジャンクションのJ。よー分からない短編小説みたいなのを次々に読まされていって「なんだろーでも短編面白いから、いいやー」ってキャッキャと楽しんでいると、最後に凄い勢いでそれらを一つの風呂敷で包みこむ。
簡単に言ってしまえば九十九十九っぽい作りなのだけれど、短編それぞれに舞城節コピーがなされていて、一冊で九十九十九っぽい舞城さんとディスコ探偵っぽい舞城さんと阿修羅ガールっぽい舞城さんと……と盛りだくさん。
メタの合間にSFを上手く使っていて、綺麗に纏め上げているのが素晴らしい。冥王星Oという企画全体としてJはパラレルワールド的存在というか異色作みたいな扱いになるのかもしれないけど、全ての冥王星Oワールドを纏め上げる素晴らしい一作。

魔界探偵 冥王星O ジャンクションのJ (講談社ノベルス)

魔界探偵 冥王星O ジャンクションのJ (講談社ノベルス)

安心と信頼の『ヴァイオリンのV』:乙一、『デッドドールのDD』舞城王太郎

で、真打ち舞城さんの『デッドドールのDD』は、乙一氏執筆の『ヴァイオリンのV』の実質的な続編。
Vでひろげられた話をできっちりと、しかも単なる異能バトルモノではなくて舞城ミステリしながら拾いあげていくさまは、流石。単なる人間である冥王星Oが、口先と機転だけで【彼ら】と渡り合っていくシーンの描写は、シリーズ中一番説得力があった。こんれだけ頭と口が回れば、普通の人間でも生きていけるわなあ……。
ただ、はっちゃけ具合が足りなくて残念だった、というのが正直なところ。『冥王星O 前後編 -V, DD』としてはとても面白くて、一気読みしてしまう程度だったんだけれど、大人し過ぎたかなあ……と思ってしまう。

魔界探偵 冥王星O ヴァイオリンのV (講談社ノベルス)

魔界探偵 冥王星O ヴァイオリンのV (講談社ノベルス)

舞城さんがメタをやったら、事件解決のためにパインハウスの中をぐるぐる回っていて気づいたら実はそれは粒子加速器でした君はもう地球には返ってこれませんサヨウナラ射出!ぐらいのぶっ飛びっぷりで、読者も企画参加の作家の人も付いてこれなくなっちゃうから……なのかなあ。
メタ小説作家舞城を期待して読んでいた私としては、ちょっと残念。

悲しかった『ペインのP』、『トイボックスのT』

一方、冥王星Oとして残念だったのが『ペインのP』と『トイボックスのT』。もしかして:電撃の作家の人たちに冥王星Oのプロットとか設定がちゃんと伝わっていないのではないか?という疑念も湧いてくる。

ペインのP

設定の整合性が余りに取れていなくて、二次創作を読んでいる気分。また、主人公が実は人間じゃなかった!とか、最初にエピローグを持って行くとか、色々面白そうな仕掛けを施しているのに、それが上手く生かせてなくて、残念。

まず、伏線が伏線になっていない。

  • 【彼ら】をカタカナで呼ぶ決まり? 他の作品にはない設定だ!伏線かな?
    • 一切触れられず。っていうかよく考えなくても、【窓をつくる男】からしてカタカナじゃないじゃない。シリーズ全体に影響を及ぼす矛盾設定。
  • 僕は人間じゃないから、二階から飛び降りても平気だった
    • 受身で頑張って衝撃を殺した という描写が……。
  • 僕は人間じゃないから、人を一瞬で狂わせる目を数秒見ても狂わなかった
    • "目を見ると『一瞬で』気が狂う"なんていう描写は無いけれど……。

そして、ペインのPの一番面白く一番重要な設定である「姉妹が持っている能力」の詰めが甘い。特に、痛みを分け与える能力について。「生物無生物有機物無機物問わず痛みを与える能力」と言っているけれど、「生きてるものは、痛みを感じるだけ」っていうのと「痛みを避ける為に自壊してゆく」というのは両立できない。有機物で構成されている体が、「痛みを避けて」自壊しないのはおかしいし、そもそも物質が「痛みを避けて」自壊するような痛みなのに、それを人間が一回でも食らって正気を保っていられるの?と。同様に「死体には痛みを与えられない」って、元人間だった死体==有機物の塊は、痛みを避けて自壊したりしないのか……?

そして、致命的なのは【彼ら】は愛について理解できない、という設定を盛大に、しかも軽いノリで覆してしまっていること。「愛はあるのよ」って軽々言っていますがいやいやいや「【彼ら】の愛」はシリーズ通してのテーマなのに、そんなに軽く認めちゃったらまずいだろ……と。
あと、愛語るときに「冥王星Oは混血だ」ってさらっと言っちゃってるけど、なんでそんなのがたかが人間にも知れ渡ってるの……?そんなの知っている人間や【彼ら】はさっくり消されちゃうはずだったけれど……。

正直、読みながら頭を抱えてしまうポイントが数多。

トイボックスのT

トイボックスのTに関しては、作者の色がとても出ていて面白かった一方、【彼ら】の愛の描写がペインのP以上に酷い。普通に人間と恋愛できてたのかよ!姉妹愛あったのかよ!おい、彼らの【愛】の欠落設定どこいったんだよ!と一人ツッコミ祭り。

さらに、そこら辺の子供でも普通に冥王星O=魔界探偵というのを知っている→【彼ら】の存在を知っている→何で【彼ら】に消されていないの……?という疑問。

そして、冥王星Oくらいしか【彼ら】とやりあえる人間は居ないはずなのに、(いくら頭が切れようとも)単なる子供が殺せるのは、流石に……。

全体として

「複数作家がひとつの作品を書き上げる」という企画は斬新でとても面白くて、それまで読んだことのなかった人の作品にも触れられるのはとても新鮮でした。ぜひぜひ第二部やって欲しいなーとか思います。
……ただ、キチンと基本設定の確認だけはして欲しいかなあと思います……(PとTはプロットの段階でオカシイことが分かるはずだし、電撃文庫の編集部はプロット読んで「これダメじゃね設定矛盾してるじゃん」って指摘くらいはしてあげてくださいよ……!)。


次回は是非流水先生とかに参加して欲しいなあ……。