岩井俊二監督はアニメの方が良いのを撮れる?「花とアリス殺人事件」観てきた
岩井俊二監督の最新作、『花とアリス殺人事件』を観てきた。
感想としては
- 実写の「花とアリス殺人事件より良い」
- アニメにぴったり。でも、アニメとしての良さが殺されてる
- あっこの監督、良い作品作る人だけど、おいらには合わないや
という三点仕立て。
キャラクターが、世界から浮いていない
映画っていうものを、あまり観ない人間であるので、監督作は「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」と「四月物語」を劇場で観た程度。その時は岩井俊二監督のトークショーもあり、なかなか面白かった。ただ、どっか据わりの悪い気分がしていたのは確かだ。
今回「花とアリス殺人事件」を観て感じたのは、その据わりの悪さが無くなったということ。これは、傑作一歩手前なのではないだろうかという感想。
アニメキャラじみているキャラ造形
岩井俊二監督のキャラ造形は、どこかアニメキャラクターじみていると感じる。絵作りはとても落ち着いていて、どこかの日常風景から切り取った、動く写真を見ている気分になる。けれど、その世界の中でいざキャラクターが喋り動き始めると、世界に溶け込んでないように感じるのだ。これが、今回の劇場版では無くなっていた。
「花とアリス殺人事件」を見に行く直前、iTunesでHDレンタルしているものをみつけ、観た。感想は「打ち上げ花火〜の方が良い、退屈」「1時間でいいのでは」というあまり良いものでは無かったし、途中からは「なるべく黙っててくれ」という気持ちで満たされた。作られた箱庭世界の中に、登場人物たちの立ち振る舞いが、溶け込んでいないように思えたのだ。
アニメには、とても合う
これが、アニメになると、その違和感が無くなった。感情豊かで行動派なアリスと、一見まともそうで、その実無茶をやる花。そして、アリスのお母さんのキャラクターも強烈だ。実写では、これらのキャラクターに合う名俳優を連れてきて違和感を押さえ込んでいた。あの名キャスティング。しかし、それでも僕は違和感を感じた。
一方で、アニメでは似合う器を作ってしまった。これはよい。オーバーなリアクション、オーバーな展開だって、アニメなら然程気にならない。スクリーンの中で表情豊かにくるくると動くアリスはとても可愛く、アリスはとても可愛かった。
アリスかわいいんだよ、実写版以上に。マジで。
ただ、名作と僕は言い切ることは出来ない。たぶん、世間一般では実写の方が評価されるのだろうな、と思う。
アニメ作品として気になる点
岩井俊二監督のインタビュー記事にあるとおり、本作品はCGと手描きアニメ混じりである。そして、手描きアニメパートは、実写をトレスしている。僕は、それが原因で、とても画面が落ち着かなく感じた。観ていてどこに集中すべきなのか戸惑ってしまうのだ。
本作品では、背景が実写並みにリアルに描かれており、キャラクターはすっきりとした造形で*1、キャラクターの彩色も影無しだ。これによって背景からキャラが「浮いて」そのキャラクターがより印象づけられる。これは、たぶんBECKなどを監督している小林治監督が「魔法使いに大切なこと」でやろうとしてたことと同じ……と思うのだけれど*2、どこかしっくりこないのだ。少なくとも、僕には。
背景の情報量を多くし、キャラクターの情報量を減らす。そうして浮き上がったキャラクターの一挙一動はとても目立つのだけれど、それが「トレース作画」によって、ガチャガチャと線がうごき。騒がしく、落ち着きの無い画面に見えてしまうのだ。
例えば、先生とアリスの母が二人喋っているシーンを思い返してみる。喋る二人、その後ろでアリスが暇そうに身体を動かす。それは良い。けれど、先生、母、アリスの全身が動く。服から身体から何から何まで。普段のアニメーションならば動かないだろう部分まで、線がぶれる。単に「フルアニメーションだから」ということでは無く、実写を下敷きにゴリゴリとトレスしているからだろう。乱雑な動きに映ってしまうのだ*3。
勿体ない
勿体ない、これが一番の感想だ。
カメラワークも、実写的なカメラワーク。アニメでは難しいようなものも容赦ない。トレスだから何とかなるという判断だろうけれど、CGな背景動画の中、キャラクターが無理矢理動いている印象で、みていてハラハラする。時折、歩いているシーンでは、動きが合っていなくて動く歩道のようになってしまっていることもあった。
逆に、CGパートの方が落ち着いて見える。だって、綺麗に動くんだもん。
総評
傑作のなり損ね。でも、意欲的な映像作品として一見の価値あり。
アニメがCGをセルアニメに似せることを模索している中、手描きアニメーションを基本軸としているこの作品は、とても珍しい作品なのだと思う。
ただ、個人的な想いとしては、次回アニメ作はロトスコくらいまでにしてほしい。もっと、アニメータ側のスタッフを信用して、アニメーション側に歩み寄れば自然な絵作りになるのではなかろうか。例えば、アニメの「紅」や「RED GARDEN」のような、よく動くロトスコアニメとして作られていたら、先に述べた違和感は無かっただろう。
で、僕はたぶん岩井俊二監督の実写作品は、合わないんだろうなって思う。とても良い作品を撮る監督なのだという事は理解しているつもりだけれど。
延々とおしゃれな動く写真を見せられて、可愛い女の子を観る。シナリオは、おまけかな?という思いが、実写映画「花とアリス」を観ていてこみ上げてきた*4。
1時間程度の作品でメリハリつけて作った方が飽きずに観られたなあ、というのが、実写版の感想だ。