UMA-SHIKA読んだよ!―― 第十一回文学フリマ購入物
今回から、ちまちまと第十一回文学フリマで買った本のレビューというか感想を書いていきたいと思います*1。
まず、UMA-SHIKA VOL.4から。UMA-SHIKAは、はてダの人たちが集まって作られている同人誌で、主宰はid:Geheimagent氏。実力派はてなーが揃いも揃った素晴らしい逸品。価格は千円で「あらお高い?」と思われるかも知れませんが、そんじょそこいらの同人誌の比にはならないボリュームで、満足することまちがいなしだと思います。
以下、各作品ごとに。
ココロ社「キリストノミコト」
ココロ社ことid:kokoroshaさん。普段は笑えるライフハックを書かれているのですけれど、日本の歴史や宗教に造詣が深い方のようで、今回は明治時代を舞台にして、宗教同士の争いを描いています。「仏像を神像に作りかえ、神道を国教とする」その命を受けて動く仏師、それと対立するキリスト教陣営。
……と、あらすじじみたことを書いてみると、凄いまっとうに思えます。でも、読了後の真っ先に出てきた感想。「真っ暗闇のジェットコースターみたい……」右に左に上に下に、どこに辿りつくのか分からない感じで振り回されました。
VOL.3でココロ社さんのインタビューにあった「かっちりとストーリーあってもあんま面白くない、むちゃくちゃなほうが良い」というのがすごく反映されていました。最初はちょっと混乱するかもしれませんが、振り回されているうちに「次どう脱線するんだろー」と楽しみになってきます。
また、仏像を神像に作りかえることを説得させるシーンがあるのですが、これが面白い。ハチャメチャな理屈で言いくるめているのですけれど、読んでるとこっちも納得しちゃいそうになります。やばいです。多分、ココロ社さんが本気になれば、不良在庫の怪しい壷とかあっという間に売れちゃいます。
ただ、一つ残念なのが、最後ちょっと尻すぼみというか、綺麗に小さくまとまっちゃっているかなあという点です。最後はもうちょっとはっちゃけて、オラオラと突き抜けて欲しかった。
ヨグ原ヨグ太郎「絶滅と初恋」
ヨグ原ヨグ太郎ことid:yoghurt氏の作品。一言。ヤバい。
あるときから性器を持たない新人類が生まれるようになった時代の物語。天使のように、慈愛に満ちた存在。そんな新人類と、それを憎む旧人類の最後の天才たちの争いと、そして恋愛の物語。
それぞれの『愛ゆえの行動』が、狂っているのに生々しいと言いたくなるくらいに説得力があって、憎しみの表現も、圧倒的な質量があって、ページを繰る手が止まらなかったです。
だめだ、この興奮を表すのに私の語彙も表現力も貧弱だ……ほんまに……。
ムラシット「ブラックボックス」
はてなシリアナリストことid:murashit氏の作品。
もしこの世界が、『物理法則』を書き換えて戦う『物理法則戦』に巻き込まれ、物理法則が書き換えられてしまった世界だとしたら?君がその戦いを終わらせられる存在だとしたら?けれども、君は『物理法則』が書き換えられたことを認識できないとしたら?友人にそう、唐突に問いかけられた男の日記。
セカイ系のようでセカイ系でない。答えの出せない問いを出されて、読み手の思考を答えの出ない無限ループへと蹴り込むような作品。だけれど、なんだろう、その思考の無限ループが何だか心地いい。
SF……というか青春……というか、青春はSFであることを示しているというか。なるほど、つまり僕たちはSFの真っ最中なんや!磯野ー!SFしようぜ!
宮本彩子「走らずの馬」
可愛い絵をいつも描かれているぼんやり画伯ことid:ayakomiyamoto氏。
年老いた馬を引きとって、その世話をする老人。馬を飼うことが夢だった。その馬と老人の物語。
童話というか絵本というか、そんな綺麗な感じの世界が淡く描き出されていて「ああ、ぼんやり画伯の絵のようだなあ……気が触れた文学を目指しているUMA-SHIKAの中では綺麗すぎないかなあ……」と思っていたら、おおぅ……。
公式のレビュー「おだやかに進む小道のようなストーリーは、いつしか人間の深遠なる心を覗き込むための泉へとつながっていく」という表現がぴったり。どんな人間も、色んな面を持っているのですね。
紺野正武「新しい太陽の都」
MK氏ことid:Geheimagent氏の作品。
「新しい太陽の都」という予言書?が発見され、その内容が紹介される、という形の作品。
氏の作品は、もんのすごい説得力があるんです。明らかなつくり話が、まるで事実であるかのように書かれていて、読み終わる頃には、書かれている内容を事実と勘違いしちゃうんです。
今回も、「すごい預言書もあるもんなんだなあ」と思った後、「でも、どこが創作なん?小説なのかなこれ?」と首を傾げてもう一度冒頭を読み返して「うわ、何かすっかり勘違いしちゃってたよ!」となりました。うん、だいぶ混乱した。
Vol.1の[首吊り芸人の墓標」でも事実と勘違いしかけて、「今回は引っかからないぞ」と思いつつ読んでいたのですけれど、やっぱり引っかかったのです。
フミコフミオ「理由」
ロックンローラーのid:Delete_All氏の作品は、いつものブログとは打って変わってハードボイルド。第二次世界大戦中、モロッコでの娼館を舞台にした作品。渋くて凄く良い雰囲気が出てて、ウィスキーロックで飲みながら読みたい感じですね。そういえば近頃酒の飲み過ぎで太ったのですが、多分この小説を読んでウィスキーが飲みたくなってしまったのも原因の一つでしょう。
ただ、普段のブログよりもちょっと窮屈な感じで堅いなあ、と思いました。ハードボイルド路線でも、もうちょっと勢いが欲しかった。
森島武士「新世界の銀行員たち」
id:healthy-boyさんの作品。
銀行同士の謎の戦いを描く。なんか007のスパイ同士の戦いを描いているみたいで(けれど、争っているのは銀行員なのだ)、すごく馬鹿馬鹿しいのをくそ真面目に書いていて、斬新。
勢いがあって、「んなアホな……」と呟く暇もないかんじ。ただ、ちょっと視点の切り替わりが激しくて、結構とばし読みしがちな私だと物語が追い切れなかったです。もう一度読み直そう。
吉田鯖「ポルチーニ茸を食卓に」
id:yoshidasabaさんのエッセイ。私はエッセイというものを余り読まないですが、これは衝撃だった。エッセイって面白い!
主婦の視点で出産のことが軽快に描かれているのだけれど、これが実に鮮やか。出産までの一連の流れの描写も凄くて、目の前でその物事が展開されているかのように想像できる。想像できすぎて、陣痛の痛みとか出産時の痛みだとのシーンを読んでいると、下半身がヒュンッと縮こまる。
凄く愛に溢れていて、家庭を持つのっていいなあ……と思いました。
保ふ山丙歩「孤児たちの支え」
id:hey11popさんの作品は、触覚も体感できる仮想現実を舞台に広がる、近未来SFもの。
SFなんだけどSF設定が本筋を邪魔しなくて、スラスラと読める。よくある「SF設定を出すための物語」じゃなくて、物語が主になっていて、凄く雰囲気が良かったです。こういうSFもっと読みたいけど、商業でもこういう作品ってあるのかしら……?
短いけれど、凄く濃厚。
あざけり先生「おじいさんの話」
id:azakeriさんの作品は、痴呆になってしまったおじいさんが話す昔話。
祖父・祖母が話すお話は、自分たちが良く知る人・よく知る場所が全然違う物語を紡いでいたのだなあというのを感じて、少しさみしくなる。ただ、自分のルーツはそこに確実にあって、それを聞かずにはいられない。そんな、祖父や祖母の昔話の雰囲気がすごい出てて、ぐっと来ました。
私も、祖母に色々聞いて記録に残しておこうかなあ。多分、私も私の母も知らない生きた物語があるはず。