僕の願い

このテキストについて

このテキストは、「桜花あどべんとかれんだぁ」企画参加によるものです。

  • 僕=なおた=「@naota344」:Gentoo/BSDの開発者。本あどべんとかれんだぁの企画者。
  • 桜花=おーか=「@rofi」:縞パンを履いている幼女大学生(♂)。

注意点

  • この作品のおける「なおた」と「桜花」は、私えむ・ばぁーどの勝手脳内妄想によるものであり、実際の製品とは異なる場合が御座います。
  • 大阪では「ノートパソコンを置き忘れると数時間で、短いと数十分でGentooが導入されていたりGentoo Linuxに入れ替えられる」という都市伝説があります。本作品ではこの都市伝説をベースにしています。

本文

縞パンとは生き物である。僕が縞パンを愛しているのは、他人よりも早くその事実に気づいたからに過ぎない。生きている縞パン。そうでない縞パン。世の中の縞パンは圧倒的に後者が多い。けれど。一つ、二つ。生きている縞パンが世の中に存在する。その一つが、桜花の縞パンだ。


出会いは唐突であった。大学入学式の日、僕はキャンパスに置かれた椅子に座り小説を読み時間をつぶしていた。騒々しい騒ぎ声。何かの演奏の音。風が強くばらばらと勝手に捲られていってしまうページ。僕はため息をついて本を閉じ顔を上げた。見回すと、まわりには初々しい新入生が歩いており、僕は思わず目を逸らした。眩しかったのだ。ーー僕だって新入生であり、きっと輝いているはずなのに。


目をそらした先には、少し短めのスカートと黒のニーソックスを履いた女の子が歩いていた。華奢な後ろ姿。日常的によく見かける光景だったけれど、なぜだか僕は思わず目を奪われた。何の変哲も無い女の子の後ろ姿。何故僕はそんなものに目を奪われているんだろう?と自分で自分を疑問に思った次の瞬間、ぶわりと風が通り過ぎ、彼女のスカートが重力に逆らった。その下から、水色の生き生きとした縞パンが僕を見つめた。


生きた縞パン履きの女の子は男の子で、名前を桜花と言う。混乱を招くかもしれないけれど、これは事実であるので、こう表現する他ない。具体的に言うと、桜花は生物学的には男であった。けれど、それ以外の全ての点において女の子だったのだ。duck typing.女の子のように振る舞う存在は女の子だ。
桜花は大学生とは思えないような純粋無垢な存在で、僕たちのアイドル的存在であった。何かもめ事が起きても、桜花がそこに顔を出すだけで解決した。実装に困っている学生がいても、その持ち前のアルゴリズム力を発揮し的確にアドバイスをした。そして、アドバイスをされた学生は、周りの学生から嫉妬の目が向けられ、そして翌日からアルゴリズムで行き詰まる学生が大量に発生するようになった。
そんな桜花は、なぜだか僕と一緒に居た。よく分からないけれど、僕は「なおたっ、なーおたっ!」と懐かれそして僕も甘やかした。はじめのうちこそ嫉妬の視線で焼き殺されそうであったけれど、そのうち「兄と妹」というような関係であると認識、納得され「桜花となおたでセットの存在だ」と認識されるようになった。心地いいくすぐったい距離感。けれど、そのような状況になったのは、間違いだったのかもしれなかった。


「なおたは、なんでおーかと一緒に居てくれるんです?」僕がいつものようにGentooを置き忘れられたマシンに仕込んでいると、桜花が尋ねてきた。僕はそんな何気ない質問に、射貫かれたように動けなくなった。僕がGentooセットアップの手を止めると、不思議そうな顔をした桜花が僕に近づいてきてしゃがみ込み、僕を見上げた。そして、いつものように、ただ純粋に疑問を口にするように僕に問いかけた。「もしかしてなおたは、おーかを、好きなんです?」僕は息が詰まった。しゃがんでめくれ上がったスカートの向こう側から、縞パンがこちらを見ていた。

僕は桜花のことを好きなのだろうか。愛してはいるだろう、家族のように、妹のように。けれど、その「愛」という概念はきちんと定義され線引きされたものではない。家族愛と、恋としての「愛」。違いはどこからだろう?いや、そもそも僕たちは家族ですら無い。本来ならば友情として存在するはずの絆を、真っ先に「愛」と表現してしまった僕の本当の心はどこにある?僕は、分からない自分の気持ちが怖かった。僕は、関係性が変化してしまうのが怖かった。

「いいや、君の縞パンが可愛くてね。そんな縞パンを履いている桜花は、大好きだよ」それが、僕の精一杯だった。「ありがとうですっ」にぱっと笑って、僕に抱きつき、顔を埋める。

そして、「いつも」が戻ってくる。「ねえ、次はどのマシンにGentooを仕込むのです?」「そうだね、次はあの置きっぱなしにされているMacBookProにGentooを入れてしまおうか」桜花はにまっと笑ってびしりと敬礼のポーズを取る。「了解でありますっ、なおたさんっ!」桜花はGentooのブートディスクを掴み、放置されたMacBookProに駆け寄っていった。僕はその後ろ姿を見ながら思う。もう少し、このままで居たいんだ、と。


だから僕は願うのだ。僕の想いが、桜花の縞パンへのものでありますように、と。桜花の前では微笑んでいられますように、と。ーーけれど、僕には「ありがとうです、なおた」の声がどこか寂しさを含んでいたように聞こえて。そうであって欲しいと願う自分が、どこかに存在した。そうしてその日、僕は日記に記した。「桜花が生きた縞パンを履いているんじゃない、桜花が履くから、縞パンが生きているんだ」