イジメイクナイ。 - 20分ライティング

トムとジェリー、仲良く喧嘩しなって良く言うけれど、だとして転校してきたばかりの戸武と楠木の喧嘩は非常に熾烈だった。トムトジェリー。戸武がトムとマンマの字が当てられているのに対して、楠木は親が昔お立ち台のボディコンの美人をやっていたことがあってそこからジュリアナ、ジュリー、ジェリーと非常に無理やりなつなげ方をされて二人セットでトムとジェリー仲良く喧嘩しな!なんて囃したてられた訳だった。
「ふざけんな人の親を悪く言うってのもいい加減にしろよ!おいトム」ってな感じで親の事をネタに笑われた楠木はブチ切れて周りで囃したてるやつらではなくて、トムに向かって喧嘩を売りに行った。「いやいや僕何も言ってないじゃない。って言うか僕今本読んでいたんだし邪魔しないでおくれよ。いくらなんでも僕も怒るよこんなことばっかりしてると」なんてトムが冷静に返したもんだから、楠木は激昂してしまって「人を小馬鹿にするのも大概にしろよクソが!」なんてトムの胸ぐらをつかんだらプチプチプチっと胸元のボタンがはじけてトムの胸元が露わになった。ついでにトムのメガネがずり落ちてカッコンと床ではねてトムの美しい目が皆の前に登場した。トムはこの世のモノとは思えないほどの美少年だった。
「なんつーお前、綺麗な目をしているんだ……!」楠木は一瞬ひるみ、そしてトムの目に見とれてしまっていた。しかし、トムはその一瞬を見逃さなかった。常に持っている鉄製の箸を後ろポケットから取り出して「てめえの目は節穴か!まだ穴が開いていないんだったら俺が空けてやらああああ!」とひとしきり叫んだ後、楠木の目に向かってそおいっと突き刺し、次いでグリグリグチャグチャネチャッと引っかき回し、最後にトドメにふんっと脳の奥まで箸を突っ込んだ。
勿論楠木は負けた。負けてしまった。やられている間、まるで感じているかのようにビクンビクビクンッと体を痙攣させ、そして楠木が箸から手を離すと同時にバッターンと大きな音を立てて倒れてしまった。「おいおい、マジかよ!」「楠木が倒されちまった!」「やべえ俺トムに恋したかも」「トムマジ可愛し!」とか男子女子交えてキャーキャーワーワー言っている間、バターンと楠木が倒れた勢いが校舎中に伝わって振動を続けていた。グラグラグラギシギシギシギチギチギチ。楠木が発生させたその振動と、校舎の固有振動数が示し合わせたかのようにピッチリと一致してしまったため、その揺れは収まらず、そして朝校長が花壇に水をやり過ぎて校舎の足元がぐずぐずになってしまっていたのと相まって校舎は沈み込み始めた。
「総員退避せよ!校舎は5分以内に壊滅する!総員退避せよ!」サイレンが鳴り響き、子供たちが慌てて校舎の外へと飛び出す。押し合いへし合い、一つの入口に向かう。そう、余りに杜撰な設計であったこの学校の校舎は、外見のデザインの為だけに出入り出来る入口は一つだけだった。そうして入口に子供たちそして教師たちがたどり着いて出て行こうとすると、そこにはトムが立っていた。「僕が君たちを安らかに眠らせてあげるよ。」そう微笑んだトムの笑顔は、今まで彼らが人生の中で見たことのあるどの笑顔よりも美しくそして神々しかったため、ぽうと見惚れてしまい足を止めてしまった。瞬間、入口に全校生徒500人が集まったことにより校舎のバランスが崩れ、校舎は勢い置く倒れ崩れてしまった。校舎は入口側を下に、生徒たちを巻きこむように倒れた為、全校生徒・教師の一人として助かることはなかった。
結局のところ、この事件はその美しさゆえにいじめられたりストーカーされたりしまくっていた転校生・トムがついにブチ切れた為に起きた事件であった。ただ、この事件の真相を知る者は全て校舎の下で厚さ10センチ程度に圧縮された肉の塊となってしまい、事件は迷宮入りした。この話を、匿名である雑誌に寄せた時のトムの台詞はこうだった。「イジメっていうのがダメだって事をね、僕はこの本の読者に伝えたいと思うよ。」そして、このナマナマしい内容の載った雑誌は道徳の時間に「イジメイクナイ」用の授業資料でショック療法的な活用がなされ、日本のイジメ発生頻度は下がったという。