中二病と呼ばれる行動の一部に含まれる、ほんの一握りの真実の解明。

時刻は12時を50分も過ぎ、教科書で顔を隠しながらうとうとと眠る学生も一部見受けられる教室。文系科目、例えば古典だとか現代国語だとか、そういった眠たくなりやすい授業は高確率で午後からの時間割に入っている。
そんな平和な中、俺一人だけは戦っている。この平和な時間を壊さないために、孤独な戦いを、ずっと続けている。
俺は利き手をそっとその場所に当てて小さく呟いた。「後、40分だ40分だけ抑えていれば、ここで開放せずに誰にも気づかれることなく誰も巻き込むことなく終わる。」そう、後40分。これが勝負だった。頭を垂れて、じいとノートに集中している様を演じながら、しかしそこでは熾烈な精神戦が繰り広げられている。力は拮抗。抑えつけるので精一杯。確率は、五分五分。
「……へへ、久しぶりにヘビィな戦いだぜ……」ここ2週間はそいつをコントロール出来ていたし、今日もそのつもりだった。「くっ……またか……静まれッ……!」「っはぁ……はぁ……」しかし、予想が外れてこんな形になってしまったのだ。そして、その瞬間が。「先生、森下君の様子がおかしいです〜なんか凄い汗かいてるんですけどー」
ざわ、ざわ……。広がる動揺。集まる視線。教壇に立っている教師が声を投げてくる。「おい、どうした。首でも寝違えたか?」ははは、と笑い声が響く中、俺は顔上げて愛想笑いをしようとした。しかし、その瞬間、奴は暴れ始めた。「ぐあっ!」「おい、どうした、本当に大丈夫か!?」急に苦しみ出した俺の様子をみて、教師が慌てだし、駆け寄ってくる。そして、周りのクラスメートも。しかし、近づかれては困る。近づかれては困るのだ。
「俺に……ッ!近づくなッ……!」「何を言っている?おい、おい!坂上、こいつを保健室に連れて行ってやれ!」「ッは……!いいから、近づくなッ!」このまま近づかれたら、関係ないやつらを巻き込んでしまう。「一人で。。。大丈夫だ。。。」そうしてじりじりじりりとドアに寄っていき、俺は駆け出した。開放エリアまでおおよそ50m。大丈夫、イケる。背中を丸め、腰を落とした体勢で俺は廊下で風になる。「おい森下ぁ!」後ろから教師の声が聞こえ、どどどと何故かクラスメートまで一緒になって走ってきている。どどど、だだだ、森下あ!
そして、開放エリアに辿り着く刹那、前に回り込まれて行く手を阻まれた。「森下、お前は!」「森下くん、何やってるのよー」「森下ってやっぱり変わってるよな」「マジで」「きんもー☆」そんな心ないクラスメートからの罵詈雑言が飛び交う中、俺の意識は朦朧としていった。「おい森下、聞いとるのか」とドンと小突く教師。「くうっ……。」それが俺の限界だった。
ぶふぅと特殊な気体が吹き出す音がリノリウムの床に木霊して、響き渡る。そして俺は腹を押さえながら壁にもたれかかる。教師とクラスメイトは鼻を押さえながら一斉に飛び退いた。「だから、近づくなって、言ったのに……」俺は力尽きて、床に崩れた。懐から零れるは、ストッパ。