あの頃は音楽が輝いていた。

家族旅行。海そして高速。母親の駆るホンダエンジン独特の音が、僕をワクワクとさせる。「明日早いから、今日は早めに寝なさいよ。」お弁当の材料を買い込んだ車の中で、母親がそう笑いかける。「あ、そうだ、明日高速長いからカセットテープ作っておいてね。」
意外と昔、私の母親が20代の頃には既にCDデッキ搭載の車があったそうだ。1980年代初頭だろうか。その頃のCDデッキは音飛びが激しくてまともに使えるものじゃなかったそうだ。「やっぱりテープだよね。昔は8トラックテープとか大きかったんだけど、小さくなったもんだよね。」そう母親は呟き、アクセルをぐうと踏み込んだ。
「ちょっと、カセット作っているからデッキの周りでドンドンしないでね!」当時小学生低学年の僕は、母親に頼んでツタヤに行き、CDを借りてテープに録音。そして、車載用のテープにデュアルデッキ搭載のラジカセでダビングをしていた。テープはマクセルの46分テープ。長すぎるとテープが伸びてデッキに絡まってしまう。片面23分、両面46分。この時間で、流行りでドライブに合う曲を選んでセンス良く並べるのが僕の仕事だった。「あー!ちょっと!ドンドンするから音飛んだじゃん!またやり直しじゃん!」ゴスッと弟を叩く。「痛いーおにーちゃんが叩いたー」「あんたお兄ちゃんでしょ何やってんの」ビターン。テンプレートな我が家の会話。そして僕は録音をやり直す。
「そういえば近頃テープ作らなくなったね。」「懐かしいね、昔はよく作っていたのに。」ふと、運転中に思い出し、母に話しかける。「このカーナビもMDデッキついてるのに、MDすら最近使わなくなったしねえ。」「そうだね、中学生時代は"音楽再生出来る携帯"買って、高校時代は"ネットMDだわーい"とか言ってクソ高いMDウォークマン買ってたね、あんた。」「不便だったけどねーあれ。」「あれ3万幾らしたとか言ってなかった?あんたそういう変なもんばっかり買ってて。今日はiphone買うとかどーとか。」「はいはいー御免なさいー僕は浪費家ですよー」
時代と共に音楽は変わるというけれど、デバイスも同じだ。便利になった、というけれど、逆にその不便な部分んで楽しんでいたのも事実だ。僕はそう思い、少し懐かしいけ気持ちになりながらハンドルを切った。「ちょっとアンタ!左折しろって言ったのに何で右折してんの!遠回りじゃない!」「あ……!」