青春的行為

良いこと悪いことは続くものであり、それはごく自然なことである。その発生確率がまんべんなく綺麗に広がって、良悪良悪良悪……などと順繰りに続いたら、それは何かの意図の介在を疑うべきだ。
しかし、さて幸せなことが何があったかしらん?と首を捻ったところで出てくるものはなく、不幸なことは?と問われると次々と出てくるのが現在の僕の置かれている状況で、誰かに言わせれば「大殺界」という状況なのだろうか。あのでかい顔を思い浮かべるだけで、ついていた運ももげてしまう気がする。


先日はサーバが故障し、今日はアイフォーンのタッチパネルが完全に故障。一ヶ月前に液晶を砕いて新品交換してもらったこの端末、タッチパネルが全く反応してくれないのである。
「これは林檎じゃねえ、マグロだ!」とappleに連絡すると「代わりの娘を銀座にてお引き渡し致します」とのこと。面倒だ、引き取りに来てくれ、と言うと検証に一週間待ち。やはりアイフォーンは信仰心が足りないと使えないのである。


そうして僕は聖地の銀座まで車で行く。殴り込みだ。ただし金は無いので下道で。電車代より安いのである。そして東京で買い物をしている後輩も拾えば、一石二鳥どころの騒ぎでは無い。
しかし、安かろう悪かろうという言葉もあるように、安いものには罠がある。土曜日の国道六号。渋滞するのである。どんどんと伸びる到着予定時刻。普段二時間しない道のりが三時間半。appleの予約が刻々と迫り、ついに突破。息を切らして飛び込むが、残念ながら10分前に予約はキャンセルされましたとの無慈悲な声。僕は悲しみに包まれる。
何とか一時間後に予約を入れ直し、後輩と落ち合う。一時間半も遅れたことを詫び、しばらくアップルストアで時間を潰す。そして端末の交換。無事交換対応である。

※※※

仕事を終え、店を出ると雨。駐車場まで走って行こう、と僕たちは駆け出すけれど、駆け出しの若者達には障害というものが付きものだ。バケツひっくり返したみたいな土砂降りに僕らは襲われる。
二人でうろついても意味ないし危ないから、と僕は傘を買って一人で駐車場を探す。しかし、方向感覚に定評のある私にはどこに自分の車があるのか分からない。どれも似たような立体駐車場である。


「私ここに車停めましたっけ……」
「違いますね……」


天の涙は僕のパンツをも湿らせる。その悲しさに身を震わせながら、自分の車を求め煌びやかな街を彷徨う。高級ブランド用品店の磨き上げられたガラスは、僕の姿を映し出す。僕は自分の姿に目を背け、走る。ここですか?ちがいます。ここですか?ちがいます。ここですか?あそこじゃね?
親切なおっちゃんに助けられた僕は、走るのだ。今僕の頬を濡らすのが、天の涙なのか、はたまた自分の目からこぼれ落ちたものなのかを気付かぬように。


車に乗り込みエンジンオン。後輩の元へと向かおうとする。ナビセット。案内開始。
「目的地近くです。地図を見ながら運転して下さい」
そうして僕は一方通行ジャングルに迷い込むーー


少し濡れてしまったアイフォーンは誤動作。電話が出来ない。ナビは使えない。頼れるのは自分の方向感覚と記憶だけ。そんな曖昧なものでも何とかなるように世の中はできており、暫く後には何とか帰路に就く。


「風邪ひきません……?大丈夫ですか……?」
「大丈夫じゃないから、コンビニでパンツとシャツ買ってトイレで着替えてきます。ズボンは積んである」
「女子高生ですね、青春です」
「ああ、青春だよ」


その夜、千葉県のセブンイレブンでは、一人の男子大学院生が女子高生的更衣行為という名の青春をくぐったのであった。